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~A lack of Magic Point~ エロゲーとか芝居とかについて書いていくブログ。
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明日香Trueの後っていうか、エンディング前の受験期の話。
里伽子と明日香の関係を中心に。ちょっと駆け足ですが。





三月でファミーユを辞めた明日香には過酷な受験生生活が待っていた。今まで毎日顔を見られたのに仁となかなか会えなかった。学校が終わってから、驚くくらい時間があった。土曜や日曜にまるですることがなかった。

「あたし、本当、ファミーユのことしかしてなかったんだなぁ」
「文化祭とかしてたんでしょ?仁から聞いたけど。」
「あれもファミーユだったよぉ」
「それもそうか。あ、そこの訳ちょっとおかしい。」

ちょっと高校生とは思えない。多分、あんまり健全とは言えなかった今までの暮らし。でも、なんて充実していたことだろう。アルバイトばかりしていた明日香を心配していた両親は安心してくれたけれど。

週二回、仁との家庭教師だけが明日香の潤いだった。でも、自分の知らないところで楽しかったり、辛かったり、大変だったり、ファミーユで過ごしている仁を見るのも苦しかった。

「そこのthatは?後ろに完全文が来てるでしょ?」
「えーっと、あっ!同格!」
「正解。thatの判別は出来るようになったね。」

頑張らなきゃいけない。強く決心したはずなのに、勉強の効率は上がらなかった。仁もそれには気付いていた。でも、店を守らなければならない仁には、週二回の家庭教師が精一杯。

そういう危機的な状況で、お呼びがかかるのは一人しかいない。仁が心から信頼し、明日香が心から尊敬する元ファミーユのフロアチーフ。八橋大学経済学部が誇る才媛夏海里伽子。

「そんなに褒めても何も出ないんだけど。」
「里伽子さん、何か言った?」
「何でもない。次行くよ」

里伽子は三月中に約束した通り、快く明日香の家庭教師を引き受けた。多い時は週に三回。明日香の部屋だったり、或いはファミーユだったり。

「里伽子さんって、やっぱ頭良いんだね」
「急にどうしたの?」

英文の下線部和訳を作りながら、明日香がそう呟いた。明日香本人ではなく、その右手が書き出していく日本語文に注がれていた里伽子の視線が明日香の横顔に移った。

「せんせがいつも言ってたから。里伽子に比べたら俺なんか全然だ、って。」
「そんなことないわよ。結構馬鹿なとこあるって自分でも思うもの。」
「せんせに頼まれた面倒事引き受けたりとか?」
「…evenの訳がおかしい」

消しゴムをかけながら、はぐらかされたと明日香は思った。里伽子は仁についての話題に、あまり触れようとしない。

「こう?」
「そういうこと。次は数学だっけ?」
「あー、そだ、これ聞いとかなきゃって思ったんだ。」

明日香が問題集のページを開いて、ある問題を示す。そこには(八橋2001)と書かれていた。里伽子も受験生時代に解いた覚えがある問題だった。この子は本気で仁の後輩になりたいんだな、と里伽子は思った。

「途中の式まで出来たんだけど進めなくなっちゃって」
「p+qが出てきた時に必ず調べるものは?」
「え?えーっと・・・」
「時間切れ。対称式。」
「あ!そうしたら、判別式が使えるから、こうして・・・」
「正解。」

里伽子が思っていた以上に明日香は賢い生徒だった。真摯に取り組み、ミスを悔しがり、学ぶことの喜びを知っていた。年下の人間を見て「昔の自分に似ている」なんて感じるほど歳は取っていないはずだけれど。

「里伽子さんさ、」
「今日は私語が多いんじゃ…」
「せんせとキスしたこと、ある?」

大きな音がした訳ではないし、里伽子が特別大きな反応をした訳ではない。それでも、その瞬間里伽子が発した空気が、明日香に里伽子の動揺を如実に伝えた。

「…何でそんなこと聞くの?」
「知りたかったから」
「何を?」
「里伽子さんの気持ち」

明日香は真っ直ぐ里伽子を見つめ、里伽子が目を逸らすと参考書とノートに戻った。その日、それから二人は、一言も話さなかった。




里伽子が教え始めて一ヶ月。明日香はファミーユにいた頃のように生気を取り戻していた。勉強にも集中するようになったし、学校生活でも最後の一年を悔いなく過ごし姿勢になっていた。時たまファミーユに顔を出しては、仲間達に里伽子の優秀な先生ぶりを披露し、仁を苦笑いさせることもあった。

「最近元気そうだよね、明日香ちゃん」
「そうかな?」
「そんな感じがするけど。」

明日香の変化を一番強く感じていたのは仁だった。ファミーユを離れさせたのは失敗だったかと一時は思ったのだが、きちんと復活していた。世界史や英語など地道な積み重ねが必要な科目が伸びていることがそれを裏付けていた。

「里伽子さんのお蔭かもね。」
「かすりさんに『リカちゃんに明日香ちゃん寝取られたってホント?』とか意味の分
からないこと言われたんだけど…」
「最近だと里伽子さんと過ごす時間の方が多いもんねー」
「妬けるなー」

明日香は小声で「どっちに?」と呟いたけれど、仁の耳には届かなかった。

「せんせ」
「ん?」
「あたし、頑張るから」
「そっか。」
「どんな結果になっても、頑張るから」

仁は明日香の言葉に笑顔を見せた。この人は何も知らなくて良い。きっと、知らない方が良い。明日香は決意を新たにして、問題に向かった。




「里伽子さーん、この問題がどーしても出来ないの」
「最近、あたしを頼るのに遠慮がなくなってきような…」
「だって里伽子さん頭良いし、優しいし、美人だし」
「どっかで聞いた気がするんだけど、それ。」

明日香が示したのは八橋大の数学の過去問だった。正六角形の内部に正方形を書き、もっとも大きくなるものを作れという問題だった。

「この問題はつまり…」

里伽子はなるべく分かりやすく言葉で説明したのだが、どうも明日香はピンと来ないようだった。このレベルの問題でも少しヒントを出せば解けるくらい力がついてきているんだけれど、と思いつつ他の方法を考える。

「んー、じゃあ、」
「里伽子さん、イメージ沸かないから図描いてもらえないかなぁ」
「え、でも、私作図はあんまり」
「大丈夫だって、イメージだから」

明日香がペンケースから定規とシャーペンを取り出して里伽子に差し出した。それを受け取る里伽子の表情にあったのは困惑の色だった。定規をノートに置いて、左手を添え、右手に持ったシャーペンで線を引く。それだけのことをするはずなのに、里伽子はひどく緊張している様子だった。

「…里伽子さん?」
「あぁ、ごめん、今描くから」

無理に笑顔を作った里伽子が大きく息を吐いてシャーペンを握る。手の震えがペン先に伝わり、小刻みに震えながらノートに下りていく。線を引くには過剰なくらいの力が入り、線が引かれようとしたその時だった。

「もういいよ、里伽子さん。」

明日香が里伽子の左手を両手で掴んでいた。明日香の手も震えていたけれど、里伽子はそれを感じることが出来なかった。

「ごめんね、里伽子さん」

一気に顔面蒼白になった里伽子が、席を立とうとした。しかし、立てない。この小柄な身体のどこから、と思うくらいの力が里伽子の左手を握り締めていた。

「ごめん。この問題、自分で解けた」
「………」
「里伽子さんを試しました。ごめんなさい」

里伽子の身体から力が抜けて、どさりと席に腰を下ろした。一ヶ月もこんなに近くにいたら勘付くのも当然か。色んなことを諦めたせいで、警戒心まで失っていた自分に里伽子は気付いた。

「気付いたのが私でごめんなさい」
「どういう意味よ、それ」
「せんせに隠してたんでしょ?せんせが気付かなきゃ」
「論理がおかしいわよ」

いや、でも、案外そうなのかもしれない。自分は仁に気付いて欲しかったのかもしれない。どんなに隠そうと頑張っても気付かれてしまうくらい、仁に自分を見て欲しかったのかもしれない。

五分、十分、そのまま無言のうちに時間が過ぎた。里伽子が逃げようとしないのを確認してから、明日香はその手を離した。

「左手、動かないんだよね」
「…ええ」
「どうしてこんなことになっちゃったの?」
「言えない」
「大学殆ど行ってないんだって?」
「そんなことまで知ってるの?」
「今カノが元カノについて色々聞いても誰も不思議に思わないから」
「元カノじゃない」
「大丈夫。二股なんです、って言っといたから。」

明日香は自分の言った冗談に薄く笑った。里伽子は表情を全く変えなかった。

「やっぱり、センセと別れちゃったのって、これのせい?」
「だから、最初から付き合ってない」
「でもお互い好きだったんでしょ?」
「好きじゃなかった。どうでも良かった。」
「でもキスしたんでしょ?」
「そんなの、今のあなたはどうでもいいじゃない!!」

明日香が妬ましかった。アルバイト先で出会ったちょっと良い感じのお兄さんと段々親しくなって、恋に落ちて、気持ちを伝えて、恋人になって、少しトラブルもありながらそれを乗り越えて、なんて人並みな恋愛を仁としている明日香が妬ましかった。

「私、せんせのこと好きだよ。せんせも私のこと好きって言ってくれる」
「もう、やめてよ。あたしなんか、放っといてよ…」
「里伽子さん、せんせのこと好きでしょ?」
「そうだったら何だっていうのよ。」
「好きなの?もう好きじゃないの?どっち?」

執拗に明日香は里伽子に迫った。答えを求めた。里伽子の右手が、力の全く入らない左手とは対照的にきつく握りしめられていた。

「………きに決まってるじゃない。」
「もう一回。」
「好きに、決まってるじゃない。二年も掛けて、必死にあいつを振り向かせたの。
恋愛なんか全然したことないあたしが、全然気付かない馬鹿に、必死で。こんなこ
とがあったって、恋人が出来たって、簡単に諦めたり出来るはずないじゃない!!」

明日香を睨みつける里伽子の目から、ボロボロと涙が零れた。明日香はそこから目を逸らさなかった。

「里伽子さん、センセに秘密作ろ。」
「秘密?」
「私と里伽子さんだけの秘密。」

ひどく優しい表情になって、明日香は再び里伽子の左手にそっと触れた。

「センセに秘密のままにして、この手治そうよ。大学もセンセと一緒に卒業しようよ。
私、何でも手伝うから」
「………。」
「もう一回ファミーユ戻ってきてよ。センセと一緒に働きたいでしょ?」
「そんなことしたら、」
「そんなことしたら?」
「本当に諦められなくなっちゃうじゃない。もう諦めなきゃいけないのに。仁のこと。
もう、あなたの勝ちなのに」
「ううん、私勝ってないよ。里伽子さんが私と勝負してくれなかっただけ。」
「でも、」
「里伽子さん」

明日香が里伽子の両肩を掴んだ。精一杯の真剣な表情をしていた。

「お願いです。ファミーユに戻ってきて私と勝負してください」
「そんなことしたら、あなた…」
「負けないもん。絶対負けない。里伽子さんに勝って、本当にてんちょを手に入れるんだもん」

なんて強い子なんだろう、と里伽子は思った。昔の自分に似てるだなんて思ったことを恥じた。こうやって勇気を持って前に出る強さがあったから、仁を手に入れられたんだな、と納得した。勝てないなぁ、と思った。

「可愛いだけじゃないんだね、明日香ちゃんは」
「え?」
「ちょっと敵わないなぁ」
「…里伽子さん」
「今は、ね」

里伽子が口角を上げた。まだ目は潤んでいたし、頬には涙の跡が残っていたけれど、もう泣いていなかった。泣いてなどいられなかった。

「もう、諦めてあげないからね」
「望むところ、です」

明日香は自分の左手で、里伽子の左手を強く握り締めた。これが意味するところは二人共分かっている。

右手の握手は友愛の握手。
左手の握手は戦いの握手。
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プロフィール
名前:ロロ
20年くらい前に生まれて大学生をやっている。法律書を持って家と大学を行き来するのが日課。法律学よりは政治学の方が好き。男性向けエロゲーやったり、BL読んだり、野球見たり、料理したり、演劇したりするのが趣味。好きな作家は丸戸史明と門地かおり。ノルマンディー公の方のロロ。
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